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― 焔を操る愁一郎 ―

【愁一郎】
 「ふむ。お前に出来るのはこの程度か」

【妖】
 「っ――」

力を測るように眇めていた瞳が閉じられる。

【愁一郎】
 「こんなところで時間を潰すわけにはいかない」

黒衣が翻る。

【愁一郎】
 「刃を弾くその身――焔にも耐えるか?」

空気が爆ぜる。
そして、空気が凍る。

全く逆の性質のものを同時に顕現させてしまうほどの
力の奔流が生まれた。

掲げるは、眩き赫光。

焔は踊るように刃に絡み、操手はただ冷徹に屠るべき敵を見据える。

【愁一郎】
 「調節が、難しいな。
 沙耶、少しだけ暑いのは我慢してくれ」

余裕ゆえか、愁ちゃんは背後のわたしに気を使う。

【愁一郎】
 「怨敵調伏――」

燦然と焔に彩られた刃が輝く。

【愁一郎】
 「――灰燼に帰せ!!」

引き絞った矢を放つように、焔を纏った刃を標的に
向かって振り下ろす。
紅蓮の刃風が空気を灼き裂きながら少女へと向かっていく。
喰らえばひとたまりもない溶岩めいた熱の塊。
その身を幾度も灼滅することができる術を目の前にしても
少女は退かない。なぜなら――

【カガチ】
 「チッ――ウロチョロするなよっ!!」

その背後に薙羽哉さんと祇王と戦うカガチがいるからだ。

カガチは少女が自分を庇おうとしていることに気付いておらず、
雷を使い、ふたりを相手にしている。

【妖】
 「――ぁ」

波濤の如き、焔が迫る。
それは獲物を飲み込まんと顎を開ける蛇にも似て――

【妖】
 「…………」

戦慄くような声は轟音に飲み込まれ、
赫光が炸裂する――