憧憬の空

憧憬の空


「もう、いいから。ひとりにしておいてくれないかな」

苦笑しつつ言われ、私は立ちつくした。
葵さんが力なくその場に座りこむ姿は、もう見てられない。

千紘
「わかりました」

引き下がるしかないという思いで、私は倉庫から出ようとする。

でも、扉を開けようしたとき、首をひねって見た葵さんの姿が、
あまりにも孤独すぎて――。

気づいたときには、座りこむ葵さんの後ろに膝をついて、
背後から抱きしめていた。

千紘
「葵さん……」

私の思わぬ行動に、葵さんがびくっとする。
小刻みに震えていた体の動きが、同時にぴたりと止まった。


「……なっ」

千紘
「きっときっと大丈夫ですから、自信を取り戻してください」


「けど……」

千紘
「今までのやり方が駄目なんだと思います」


「千紘が気に病むことじゃない。老兵は去りゆくのみなんだよ」

千紘
「でも、本に年なんて関係ありません」


「……いや、終わりだ」

千紘
「そんな風に言わないでください」


「オレは……一過性のブームに乗ったにすぎないんだ」

千紘
「それは、すごいことです」


「前は、そう思ってたよ。でも、今は、長く愛される本になりたいと思う」

ぽつぽつと語ってくれた心からの言葉。
それに、私は胸を強く打たれた。


「ブームなんて、作られたところも大きかったんだ。
 本当にオレの中身で勝負したかはわからない」

千紘
「それなら……」

私は葵さんを抱きしめる腕を解いた。
そして、前にまわりこむと、勇気づけるために、葵さんの両手を取る。

千紘
「一からやり直してみませんか?」